しゆたろの日常

しゆたろの日常についてきままにつぶやきます。創作もします。

第三十五話 またいつか

くるみの手助けのために、相手の拳銃を打ち落とそうとしたが失敗した卓斗。
一か八かで、転がり込んで、くるみの目の前に立ち、護る体制に入る。
そこにたどり着いたと同時に、相手は拳銃を発射した。

「卓斗さん‼」

―バキュィン

今になって卓斗は思い出した。
自分が死んだときのことを。
その時もくるみを護って死んだことを…?

額には違和感を覚えたが、痛みはない。
静まり返って、自分の心臓の鼓動だけしか聞こえない卓斗。
そっと瞳を開いてみた。
相手はなぜか片手を上にあげていた。
その上げていた方が本物の銃で、卓斗に向けられていたのは拳銃ではなく、吹き矢。

そう額には吸盤が先端についた矢がついていた。

「ど、どうして…?」

その言葉にこたえるかのように、帽子を外す男。
彼は…

「俺が蘇ってから初の黄泉人のおじさん!?」

でも、黄泉にいったはずではと言おうとしたら、このおじさんについて思い出した。

「そっか、近所にすんでたおじさんだ!黄泉人は演技だったの?」

「あぁそうだよ、やっと思い出してくれたね」

「…俺、前も同じ状況で、くるみを護って死んだ…あの時は犯人はおじさんじゃなかったけど?」

「これはあの時の再現…私は穴を埋めるための役者さ」

「再現…俺って前も黄泉がえりの組織の一員だったのか、そしてくるみのことも知っていた…
思い出した…お前が俺の"妹"だってことを」

その言葉を聞いたくるみは、瞳に溢れんばかりの涙をためる。
イヤモニごしに梓の「やっと思い出してくれたんだね」の声が聞こえた。

「これってまさかくるみの計画?家族そろってたんじゃん…なんでもっと早くいってくれなかったんだよ!お前ばかり辛い思いするなよ!」

「ごめん…でも自然に思い出してほしかったから…」

「母さんたちはどうしてお前のこと言わなかったんだ?」

「卓斗が母さんを見つける前に私が見つけて話を付けた。父さんの時も同じ、反対されたけど…空気をよんでくれた」

「なんでそこまでして…」

「まぁまぁケンカはあとにしなさい、やっと兄妹再会したんだから」

「隊長は家族ではなく、仕事仲間っすよね?」

「あぁそうだが」

「くるみの計画に賛同したんすか」

「そうだ…すまん、そんなに怒らないであげてくれ、君のお母さんのように依頼されたからさ」

「ごめんなさい…」

嬉しい再会のはずなのにやっと思い出せたのに、怒りもある…よくわからない感情に卓斗自身も戸惑っていた。

「いや、俺こそごめん、一気にさ、いろんなことがフラッシュバックして何が何だかわかんなくなっちまった…」

はははと渇いた笑いをする。
くるみは涙をこぼしてうつむく。
卓斗はどうすればいいかわからず、頭を掻く。

「卓斗くん」

おじさんが不意に耳打ちをして教えてくれた。
「ごめん以外にも言う言葉あるんじゃないか?」

「そっか、ごめんじゃだめだよな。ありがとう、俺のために…」

くるみが顔を上げて、卓斗の体を両腕で勢いよく包む。

「うお…びっくりした」

そこで初めて声を上げて泣いた。
卓斗はくるみの頭を撫でた。

「ほんとは、こんなことしたくなかった、けど、こうするしか不安な気持ちを忘れられなくて、何かしてないと気が狂いそうだったから」

「ありがとう、そこまで想われて俺は幸せもんだな…そういや敬語でしゃべるの今思うとめっちゃ違和感だな」

「うるさい…ばか」

少し遠くから俯瞰する大人二人組。

「あの二人は小さい時から知ってます。言葉足らずなんですよね、兄妹想いの二人なのに相手想いすぎるからすれ違う…」

「そうなんですね。一緒に働いてるとケンカするところしか見なくて、まあケンカするほど仲がいいというからそのままにしておいたんですけど」

微笑ましく兄妹のことをみて会話をしていた。
その視線を感じてか、すこし恥ずかしくなったくるみは、卓斗と距離を取って

「もう私のこと忘れない…よね」

「うん、こんな劇的に思い出させてくれたからな、忘れるわけないだろ」

くるみは涙をふいて笑顔になった。
が、すぐに真剣な表情になった。

「そいつがいたから、僕は邪魔者扱いされたんだね」

卓斗は声がする方へ顔を向ける。
くるみは声の主を睨みつける。

「なぜ、あんたが!」

落ちていたくるみの拳銃を拾い、青年は卓斗に銃口を向けて

「久しぶり、くるみちゃん」

―バンッ

「卓斗‼」

「そして君はさよなら」


薄れゆく意識の中、青年のことを考えた。
あいつはきっと梓が昔の話をした時の男だ。


どれくらい静寂な時間があったのだろうか。
気を失っていて、徐々に耳に音と会話が聞こえてきた。

「動くな‼」

「卓斗くん!大丈夫か!?」

青年は隊長とおじさんに押さえつけられていた。

イヤモニではなく、実際に梓とシンは駆けつけていた。
二人が駆けつけるだけの時間は気を失っていたわけだ。

「卓斗君!くるみちゃん!しっかりして!」

卓斗は倒れており、体にはくるみが覆いかぶさっていた。
(俺また、死ぬのかな…)
後頭部は地面に打ち付けたから痛む。
他に痛みはないが、感覚がマヒを起こしているのだろうか。
でも、生暖かいものが腹のあたりに流れているのを感じる。

何かを探るために起き上がる卓斗。

「卓斗君!」

「梓さん、シン…」

腹には傷はないが血が滲んでいた。
誰の…?
そこでようやく頭が回転し始めた。
卓斗の上に倒れこんでいる、くるみを抱き起す。

「おい!くるみ!」

くるみはぐったりして動かない。
左胸の方に弾が貫通した跡がついていた。
そこから血が滲んで、卓斗の体についていた。

「うそだろ、今日のことまだ…話たりねぇよ…」

そして、両親の顔が不意に脳内をめぐる。

「父さん、母さんに合わす顔がねぇ…お前だってもっと二人に話したいことあっただろ!
 俺は、これからいくらだってできる!でもお前はまだできてない!だったら死ねねぇだろ!」

梓は叫ぶ彼を見ていられず、泣いてうつむく。
シンは警察と救急車を呼ぶためにめずらしく声を荒げていた。
でも、言葉に詰まるのは変わらず、自分自身にいらだっていた。
不吉を表すように、くるみの二つ結びのうち左の髪ゴムは切れて、ほどけた。


―そこからはもうその日のことは覚えていない。

 

あの事件から何日か経った朝。
仕事に行く準備を終えて、出るまであと10分。
卓斗は自分の部屋から出て、隣の部屋をノックする。
もちろん、返事はない。

「あけるぞ」

あの日から救急車に運ばれていった妹、手術は成功したが、意識が戻ることはなく。
2日後に彼女は旅立った。
その時は卓斗の瞳の涙はもう渇ききっていた。
その動かない体を家で引き取りたいと隊長に相談した。

「もちろんだよ」

そう言ってくれた。
もう離れたりしない。忘れたりしない。
くるみとも父母とも。

仕事の寮からくるみの私物はすべて持ってきて
そのうちのベッドに彼女は横になっている。
卓斗は話しかける。これが日課だ。
くるみの頬に触れ、窓から入る風でなびいた髪を直す。

「お前が待ってくれた2年間、俺はそれ以上に何十年でも待ってるからな」

彼はそう言って、彼女の横でほほ笑んだ。

 

 

 

終わり。.